この夏の出来事について僕たちは話していた
彼女の弟がケガをしたことや、カップケーキがうまく膨らまないこと、学校が始まるのが憂鬱なこと、シカゴに引っ越さねばならなくなったこと。彼女が僕に気がないことは知っていた。だがある日彼女が突然キスをしてきた。そしてそれは僕にとって自然なことのように思えた。うっすらと目を開けると、かげろうのように揺れる眼差しから光が零れ落ちてブラウスを濡らしていた。僕は彼女に何も尋ねなかった。
ジェーンには悪いと思っている。
だけど、どうしても彼女の目が頭から離れないんだ。
ジェーンの長い足に見とれたふりをしながら
かすかな彼女との思い出に気づかれないよう
長い話にただ耳を傾けている。
「すこし歩かないか?」
「いいわよ」
僕にとって”将来”とは何の意味もないものだ
失うものの大きさを思い知るより
何かを手に入れる方がよっぽどいいと思うからだ。